コラム ― ポーランド・ドイツ、アウシュビッツの旅

中野さなえと子育て、ホット一息

アウシュビッツ旅の報告、追加 その2

戦争の矛盾が絶滅作戦に

 ホロコーストどんな背景で行われていったのか。

 ヒトラーも、強烈な反ユダ思想をもっており、彼は、歴史的にあった反ユダヤ主義をあおり国策に利用しました。
 が、最初は絶滅作戦の考えは持っておらず、アーリア人による純潔なドイツを作るために、ドイツのユダヤ人を追放計画を立てたのです。

 ニュルンベルク人種法は、ヒトラーの国策の根幹であり、これがホロコーストを招いた根本的な原因でした。

 しかし、ナチが、生きてゆく価値がない劣等人種とした障害者や同性愛者、ジプシー、そして政治犯の追放は行き詰りました。
 追放地として考えていたソ連の東方地域は、独ソ戦が思うように進まず戦局が長引くにしたがって、「囚人」移送の行場を失ってきたのです。

 ゲットーはあふれ収容所も限界。疫病は蔓延し、新しい「囚人」を詰め込むためには殺さなければ空きができない。

 既に東欧ではあふれた「囚人たち」の「始末」に困り無差別に殺戮を行っていました。
 しかし、一日1000人や2000人の殺戮では間に合わない。銃殺ではたがが知れていいる。トラックを使ってのガス虐殺も考案されたが、とでもさばけない。

 ユダヤ人はドイツなど20か国に850万人住んでいたとされています。ドイツには少なく60万人だけ。東欧諸国に侵略し領土を拡大した結果、膨大な殺戮を行わなければならなくなったのです。

 そこでヴァンゼー会議で絶滅作戦が話し合われます。
 アイヒマンはゲシュタボの各地センターに、「これからの移送は大ドイツ国家領域のユダヤ人問題の『最終解決』の始まりである」と明言したのです。移送は全員虐殺するためだということです。

 結果、絶滅収容所を中心に、850万人のうち600万人を殺戮するという、恐ろしい実行がなされました。

 絶滅収容所が次々と建設されていきます。

ビルケナウ絶滅収容所。広大な土地です。

この有刺鉄線で何人も自殺しました。

 私たちが見学したビルケナウでは、窓のない列車に、食べ物も与えられず用もたせず座ることもできず、まるでラッシュ時の日本の電車のような状態で送られてきた「囚人」が、下車するとすぐに「使える者」「役に立たない者に選別されました。

 「役に立たない者」はそのままガス室へ歩かせました。「役に立つ者」は、収容所近辺に乱立した企業で強制労働させられたのです。

 いくらでも労働力は送られてくるので、酷使して殺すのも効率と考えられました。ある会社では労働者の6割が「囚人」だったと言います。

 私は、かつて殺されるとも知らずにガス室への道を歩いた人と同じ道を歩きました。一人一人の胸の内を考えると、声も出なくなりました。
 いたいけな子どもたちは、不安と恐怖で一杯だっただろう。
 ガス室では、母親にしがみついていたのだろうか。
 涙が出ました。

 選別されガス室への道を歩く子どもたち。 子どもは役に立たない。

 オシフィエンチム(アウシュビッツ)博物館で勝ってきた写真集「あなたの立っているところ」は、左のぺーじに当時の写真、右のページに現在の写真が乗っていて、比較してみるようになっていますが、まさに今私が立っている子の場所で起きたことを肌で感じさせてくれるものでした。
 この写真集には、ドイツ語版のほかに日本語版もあったのです。

 絶滅収容所は何箇所も建設されましたが、一か所1440人しか能力がなかった焼却炉が、一日約8000人を焼却できる大型になったところもあるそうです。

 ヒトラーはもちろん、異常で許すことができない人間です。しかし、劣等民族には生きる価値がない、アーリア人こそ純潔なドイツ人と規定した人間性を失った考えが、戦争の拡大にしたがって、解決できない矛盾の暗黒の中へ、ホロコーストへと突き進ままざるを得なかったと思います。

 ビルケナウ収容所のガス室。敗戦の色濃くなると爆破して証拠隠滅を図りました。

 人間の命の値打ちに差別をつける考えは、日本にもあるのではないでしょうか。

 かつて、中央教育審議会にいた三浦朱門氏は、「人間の能力には5段階ある。天才、秀才、凡才、非才、無才。能力のないものに金をかけるのは無駄。優秀な人材を育てることが重要」と述べました。

 この考えは、直接ホロコーストとはつながりません。「殺せ」なんて言っていません。それなりに分をわきまえ生きろ、と言っているのです。が、しかし根っこの考え方は共通点があります。

 人権思想の欠落があります。

 今の日本の教育は、この考えのもとに行われているのではないでしょうか。

 戦争はその延長線上にあります。戦争は人権思想の否定です。

 私は、戦争する国つくりに反対の声を、一人一人が人権思想を高めてゆくたたかいと並行して行うことが、重要な課題になっている、と保育園で発達相談の仕事をしながら実感しています。

 抵抗しなければ。安倍政権の戦争への魂胆は、国民の世論ですでにボロボロ。
 あの日本の侵略戦争に対決することの証は、この時点では安倍政権を倒すために団結することが大事だと誰もが思っていることだと思います。がんばりましょう。

 得るところが多い旅でした。これで、一応のまとめにします。(終わり)

        (2015年6月3日  記)